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感染症による死者数が、がんを越える? 抗菌薬を適正に使用するためには

薬剤耐性(Antimicrobial Resistance:AMR)と抗菌薬適正使用

イントロダクション

現在、日本における死亡原因の1位は悪性腫瘍ですが、2050年には感染症による世界の死亡者数が悪性腫瘍を越えると推定されています。[i]  この対策として、グローバル規模で解決すべき急務な課題が薬剤耐性(Antimicrobial Resistance:AMR)です。近年、新規抗菌薬の創出は減少傾向であるのに対し、抗菌薬の不適切使用によって耐性菌の出現率が増加しています。厚生労働省は、2016年から「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」[ii]を開始し、2020年までに達成すべき目標に向けて、抗菌薬の適正使用が強く求められています。  そこで、AMR対策として抗菌薬が適正に使用されるために、今後の医療で必要な技術を解説します。

基礎知識

「抗菌薬」は、細菌が原因で引き起こされる感染症の治療薬です。世界初の抗菌薬であるペニシリンが、後にこの業績でノーベル賞を受賞したフレミングにより1928年に発見されて以来、これまでに多くの抗菌薬が開発され、様々な細菌による感染症の治療が可能となってきました。しかし、必要のない抗菌薬の使用や抗菌薬の不適切な中断等により、体内にいる細菌がその抗菌薬への耐性を持つ可能性が高くなります。耐性菌が増えると既存の抗菌薬が効かなくなることから、これまでは感染、発症しても適切な治療を行えば軽症で回復できた感染症が、治療が困難となり重症化し、さらには死亡に至る可能性も出てきます。  2015年5月の世界保健機関(WHO)総会では、薬剤耐性に関する国際行動計画が採択され、日本でも厚生労働省が2016年に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」を開始しました。薬剤耐性を抑制するため、抗菌薬の適正使用の促進が世界各国で行われています。

問題提起

WHOは、抗菌薬適正使用の指標として推奨しているAWaRe 分類において、耐性化の懸念が少ないとされる「Access」(一般的な感染症の第一選択薬、または第二選択薬として用いられる耐性化の懸念の少ない抗菌薬で、すべての国が高品質かつ手頃な価格で、広く利用出来るようにすべき抗菌薬)の抗菌薬使用を、全抗菌薬に対して60%以上にするという目標値を示しています。しかし、「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2020」(厚生労働省)によると、日本のAccessの占める割合は20%程度であり、抗菌薬が適切に使用されていない実態が報告されています。  細菌感染症は早期治療により改善をする点から、早期診断が重要です。細菌感染の標的微生物の確定には培養検査のように時間を要する検査が多く、病原菌を確定されないまま不適切な経験的治療により抗菌薬使用が開始されることが少なくありません。このことが広域抗菌薬が使われる一因になっています。早期の菌名推定・確定に質量分析や核酸検出などの様々な新技術が応用されていますが、これらは正確性を持つ一方、多大な設備投資やランニングコストを要し、すべての医療機関で導入することは困難です。迅速、安価、正確の三要素を備えた菌種推定技術は現在ないのが現状です。また、迅速、安価な手法としてグラム染色がありますが、その読影に検者間の経験差があることが問題となっています。  以上のことが原因で、抗菌薬が不適切に使用され、薬剤耐性が進み、結果として患者QOLの低下とともに医療現場の負担の増加の一因となっています。

解決方法

抗菌薬の適正使用には、専門知識を有さない医師でも、迅速かつ正確に検査が可能な技術が求められます。  このため、現在、比較的広範に使用されているのが、市中クリニックでも導入可能で簡便性のあるグラム染色による手法です。実際に、第1回 AMR対策普及啓発活動 厚生労働大臣賞を受賞した奈良県の市中クリニックでもグラム染色を用いたAMR対策が行われております。しかし、グラム染色読影には検者間の経験差等により、正確性のばらつきが発生することあります。これを解決する手段として、確定診断のついたグラム染色画像を教師データとしてAI画像解析モデルを構築することで、検者間の経験差に左右されない菌種推定が実現できます。  また、学習済みAIモデルが解析した画像から適切な抗菌薬処方を提案することで、より効果のある抗菌薬処方ができ、耐性菌の出現抑制のみならず、患者QOLの軽減にも繋がる可能性があります。

製品情報

弊社では、独自に開発したAI画像解析技術と、市中クリニックでも容易に導入可能なグラム染色を行った検体の塗抹鏡検を組み合わせ、グラム染色画像から正しい菌種推定と抗菌薬選択支援が可能なAIシステムの開発を行っています。本技術をスマートフォンアプリとして普及させ、簡便にさまざまな医療現場で活用できる世界初のプラットフォームを目指しています。  また、耐性菌の種類や割合は地域によって異なり、それを示すものとしてアンチバイオグラム[iii]があります。弊社が開発中のプラットフォームは、アンチバイオグラムと連動予定であり、これにより、菌種推定の早期化のみならず、菌種推定の省力・効率化、抗菌薬適正選択による患者への個別化治療を通じた医療品質の向上とAMR抑制、患者QOL改善、医療費抑制等に貢献します。

結論

● 薬剤耐性菌による死者は増加すると推定されており、AMR対策は喫緊の課題である
● AMR対策に向け、抗菌薬の適正使用において更なる改善が求められる
● 抗菌薬の適正使用のために、菌種推定・同定のプロセスにおいて課題解決の余地がある
● グラム染色画像をAIで解析する技術は、正確な菌種推定、抗菌薬選定支援に繋がる可能性がある

問合せ先

ネクスジェン株式会社
〒650-0047 兵庫県神戸市中央区港島南町6-3-5
TEL:078-381-9455
Email: info@nextgem.jp

参考文献

  • Antimicrobial Resistance: Tackling a crisis for health and wealth of nations. UK, December 2014 Tackling Drug-resistant Infections Globally: Final Report and Recommendations. UK, May 2016
  • 厚生労働省「薬剤耐性(AMR)アクションプラン
  • アンチバイオグラム:ある施設、ある一定期間において分離された微生物の各種抗菌薬への感性率(%S, percent susceptible)を表形式にしたもの(「アンチバイオグラム作成ガイドライン 」より)