従来のバルク細胞アッセイは細胞が均質であることを前提としていますが、実際には個々の細胞の性質は不均一であるため各細胞の特異的な情報は失われてしまいます。細胞移植を行う場合、移植する細胞にがん細胞が一つでも存在すれば死に至ることもあるため[i]、単一細胞の情報獲得は造血幹細胞移植に関連する治療法の研究開発を行う弊社にとって非常に重要です。近年マイクロ流体デバイスによって単一細胞の分離、培養が可能となり、単一細胞の情報獲得が実現できるようになりました。
この資料ではマイクロ流体デバイスに関する基礎知識、マイクロ流体デバイスの応用例、マイクロ流体デバイスの課題と改善策に関する情報をお届けいたします。
図1のような半導体微細加工技術や精密機械加工技術を応用して作成される深さ・幅が数 μm~数百 μm程度の流路構造を持つデバイスです[ii]。微小な流路に対して液体を連続的に導入することにより流速の安定した流れを形成できますが、導入する液量によりこの流速を制御することが可能です。
白い線は100 μmを示す
図1. マイクロ流体デバイスの流路構造
液体に細胞を加えると、サイズなどのパラメータによって分類することが可能となります。つまり、サイズなどのパラメータが異なる細胞が存在する場合、マイクロ流体デバイスに導入する液量のみで任意の細胞のみを回収することができます。また、流体力学的な力によりマイクロ流体デバイス中に単一細胞を一時的に固定することができ、単一細胞の観察や解析、任意の細胞を分離することが可能です。
このマイクロ流体デバイスを応用することで、例えば固定した細胞の観察画像からガン細胞を識別して取り除き、細胞移植に必要な良質な細胞群だけを提供することが可能になると思われます。良質な細胞群を提供するためには任意の細胞をマイクロ流体デバイスから分離させる必要があります。マイクロ流体デバイスにおいて任意の細胞のみを単離できるものは少ないですが、それが可能なデバイスを2つご紹介します。
図2. レーザー照射により任意の細胞を分離するマイクロ流体デバイス
1つは流体力学的な力で細胞を固定し、その後レーザー照射によって生じた気泡によって任意の細胞を分離します[iii]。
図3. 流量制御により任意の細胞を分離するマイクロ流体デバイス
もう1つは流体力学的な力で細胞を固定し、特定の経路の流量を制御することで任意の細胞を単離します[iv]。これらは簡便ですが、前者は後者に比べてより選択的に細胞を単離することが可能です。
マイクロ流体デバイスの課題はデバイス当たりの固定できる細胞数が100程度であることです。これを解決する方法としてデバイスを並列化して固定可能な細胞数を増やすことです。また、細胞どうしが接着することがあるため、マイクロ流体デバイスの細胞捕捉部位に2,3個の細胞が固定される場合があります。これを解決するには細胞をマイクロ流体デバイスに導入する前に十分に細胞を攪拌する必要があります。
細胞移植を行う上で単一細胞の情報は人命にかかわるほど非常に重要であり、マイクロ流体デバイスによって単一細胞の情報を獲得することが可能です。マイクロ流体デバイスを応用して良質な細胞群を単離することで、安全性と質の高い細胞移植の実現が可能になると思われます。
ネクスジェン株式会社
〒650-0047 兵庫県神戸市中央区港島南町6-3-5
TEL:078-381-9455
Email: info@nextgem.jp